雨がシトシト降っている午前5時。今の家にきてから机に向かうなんてことはあまり無かったけど、上の住人が毎晩のようにブイブイと鳴らす重低音が気になって眠れないので、こうしてこれを書くことにした。
シトシトブイシトブシトイブイシト。

今の時期は新緑が眩しく暑すぎず寒すぎず一年の中で最も好きだ。生活時間不順な最近の僕は、自転車に乗って早朝の青白い空気を吸いながらついこの間までサクラだった桜のトンネルの緑に包囲されてニヤニヤと不気味な笑みをこぼしたりしている。
そういう神経が研ぎ澄まされて色んなものが見えてくる瞬間を最近はどうも欲している、あるいはどうやってこの街にいながら一人になるのかということを考えている。もちろん一人はいやだし寂しいんだけど、そういうことじゃなくて、先週、自由が丘の焼肉屋でJさんが言っていたようにいかにして日常を日常化しないかということは物凄く共感できて、形式化されていない”よろこび”に対して敏感になる時は、たいがい急に独りぼっちになったりした時だからだ。

外の雨は一層ひどくなっているみたいだ。でも空は明るんできている。窓を大きく開けてみると少し生暖かい空気がニュルーと網戸越しに浸透してくる。雨のにおいで嗅覚が働く。嗅覚と打ってみたところでなぜか急に中学の時の通学路を思い出した。たしかに帰り道に必ずバブのにおいがする家があった。部活の後風呂に入りたいと思っているとその家のキンモクセイの生垣の向こうから換気扇の音とともにあの入浴剤の甘ったるいにおいがフワッとくるのだ。帰り道の方向が違う友達と別れた後だったのであの時も一人のことが多かった。

もう寝なきゃと声に出してみる。それが部屋の空気を伝わって、網戸で細かく分けられて、外へ出て行く。その言葉が充分に雨で濡らされる頃、たぶん僕は眠れる。